最初で最期の海外旅行(その②)カルチャーショック編
※前回からの続き。
島内の集落は、スラムのようだった。
灰色の砂地の上に、建ち並ぶ簡素な家々。小屋と言った方が近い。
実際にはただ田舎なだけで、スラムとは言わないのだが、電気ガス水道等のインフラが無く、単純に生活水準が低いのだ。
一言で表現するなら、
汚い。
こんなこと言いたくないが、
不快感極まりなかった。
家と家の間の迷路のような狭い道を進まねばならず、一刻も早く抜け出したいのに、道のりは思いのほか遠かった。
家から漏れ出す謎の水(たぶん水じゃない)に濡れた砂が、ビーサンを履いた足先にまとわりつく。
汚い。とにかく汚い。
途中、こちらを意に介さずバスケットボールに興じる子供らや、
ニコニコしながら「ハロー」と言ってくる子供らがいた。
みな黒く焼け、裸足でパンツ一丁だ。
とりあえず笑顔でハローと返す。
人としての道理を忘れてはならない。
なんとか抜けて海岸にたどり着いた。
こちら側の海岸に来た観光客は、思っていたより少なかった。
海岸はたしかに綺麗だったが、あの道を抜ける価値があるかと言われると微妙だった。
ヤシの実を割ってストローをさしたヤシの実ジュースも、飲んだことがある方ならわかると思うが、青くささがありあまり美味しくはない。
さあ、
またもと来た道を戻らねばならない。
自然と来た時以上に足早になる。
途中、先程ハローと言ってきた子供らが、少し人数が増えてニコニコして立っていた。
目が合う。
次の瞬間、
私が持っていた、ふた口分ほどの水が入ったペットボトルに、子供らが笑顔で群がって来た。
!!?
訳がわからず、
ただ「ノーノー!」と言う滑稽すぎる私。
呆然と見つめる夫。
ハッキリ言ってめちゃくちゃ怖かった。
子供らは私の反応などまったく意に介さず、私が握りしめたペットボトルを笑顔で引っ張り合う。
どうすることもできず、私はペットボトルを離した。
子供らは私に目もくれず、ペットボトルを奪い合いながら消えていった。
一瞬の出来事だった。
私にはわかりえない、ペットボトルが必要な理由が彼らにはあるのだろう。
(出発前、貴重品を全てロッカーに預けさせられたのだが、その理由がわかった。)
なんとも言えない気持ち
なんとも言えない空気。
逃げるように、また足早に歩き出す。
一心不乱に歩き、船着き場まで戻ってきた。
ホッと胸を撫で下ろす。
出航まで時間があり、みな思い思いにボーっとしていた。
ふと海岸付近の桟橋の下に目をやると、大きな貝がらを持った子供が上を見上げていた。
目が合った。
まずい。
案の定、子供は貝がらを持ってすかさずこちらへやってきた。
買えと言っている。
ひたすら無視したが、なかなかいなくならない。
心を鬼にして、
キッと子供を睨みつけ、
「ノーセンキュー」と言った。
すると子供は諦めて、ほかの観光客へ向かって行った。
やがて、
出航の時間になった。
シュノーケリングツアーに参加して、
シュノーケリングできずに、
一生忘れられないカルチャーショックに打ちのめされることになるとは、思いもしなかった。
なんとも表現しがたい思いを胸に、
船はまた、荒波の中を悲鳴とともに進む。
旅はまだ始まったばかりだ。
次回へ続く
[追加]
次回その③↓
https://apiyama-apisuke.hatenadiary.com/entry/2018/05/29/235818